オン・ザ・ロードへ、ふたたび

オン・ザ・ロードへ、ふたたび

『遊歩』という素敵な遊びを教えてくれた本があった。 もう40年も前に書かれた本だが、その文章は、いまもバックパッカーたちの心のいちばん深いところをくすぐりつづけるのだ。

アメリカの詩人アレン・ギンズバーグが、「ソローヘ帰ろう」といったのは、1960年代のなかば、ベトナム戦争まっただなかだったと思う。ギンズバーグがいうところのソローとは、19世紀後半に『森の生活』を書いたヘンリー・デビッド […]

アメリカの詩人アレン・ギンズバーグが、「ソローヘ帰ろう」といったのは、1960年代のなかば、ベトナム戦争まっただなかだったと思う。ギンズバーグがいうところのソローとは、19世紀後半に『森の生活』を書いたヘンリー・デビッド・ソローのことだ。
「人間はなくてすむものが多いほど、それに比例して豊かなのだ」というソローの言葉は、いまも世界中のパックパッカーのポケットに入ったまま、地球を旅している。

ところで、「『歩く』という素敵な遊びがある」ということに気がついたのはいつだっただろう、と思いおこしてみると、ぼくの場合は、この本『遊歩大全』にたどりつく。ギンズバーグやソロー、それにジャック・ケルアックが示唆してくれてはいたけれど、それを具体的に教えてくれたのは、コリン・フレッチャーだったのだ。

『遊歩大全』(コリン・フレッチャー著、芦沢一洋訳) 1978年、森林書房発行、山と渓谷社発売。上巻=1600円。下巻=1700円。消費税がなかった平和な時代の本だ。残念ながら、単行本はすでに廃刊。ザ・コンプリート・ウォーカーを『遊歩大全』と訳した芦沢一洋さんに、座布団一枚。

『遊歩大全』(コリン・フレッチャー著、芦沢一洋訳)
1978年、森林書房発行、山と渓谷社発売。上・下巻。消費税がなかった平和な時代の本だ。残念ながら、単行本はすでに廃刊。ザ・コンプリート・ウォーカーを『遊歩大全』と訳した芦沢一洋さんに、座布団一枚。

コリン・フレッチャーは、1922年ウェールズ生まれ。イギリスで少年時代を送り、第二次大戦では英国海兵隊として従軍。戦後は、アフリカ、アメリカ、カナダ、イギリスなどを渡り歩くが、1956年以降はカリフォルニアに落ちつき、遊歩と執筆をおこなう。
2007年6月、逝去。

1978年に『遊歩大全』は、日本で発売された(アメリカでの初版発行は68年。翻訳本は74年版の完訳)。
ぼくがこの本に出会ったのは、1970年の終わり(1980年だったかもしれない)。財布の底をひっぺがしてもお金が足らなかったから、数日間、本屋さんで立ち読みをつづけ、一日一食の生活を送り、ようやく買ったのだった。

現在は、復刻版として文庫と電子書籍で発売されている(山と渓谷社)。ぼくは、旅の空の下、キンドルで読んでいる。

現在は、復刻版として文庫と電子書籍で発売されている(山と渓谷社)。ぼくは、旅の空の下、キンドルで読んでいる。

それからというもの、「家を背負って」という言葉に、ワクワクしながら読み進めたのだ(とにかく分厚い本なのだ)。
危険動物として、ラトルスネーク(ガラガラヘビ)やサソリなどが出てくると、紅顔で無知な青年の旅の夢想はどこまでも広がっていく。

「ノンフォトグラファーの喜び」なんてのは、いまの時代にこそぴったりの項かもしれない。
延々とカメラの話や撮影方法、撮影アイデアなどのページがつづいた最後に、偶然にも旅の途中でカメラが壊れたフレッチャーは、「わたしは突然悟った。写真というやつは、どう弁護しても、黙想の世界とは相いれないものである」と、記すのだ。

アメリカでは、改訂版『The Complete Walker Ⅳ』(2002年発刊)が、いまも発売されている。だれか、この改訂版の新訳を出版してくれないか!

アメリカでは、改訂版『The Complete Walker Ⅳ』(2002年発刊)が、いまも発売されている。だれか、この改訂版の新訳を出版してくれないか!

また、巻頭には、20世紀初頭の放浪詩人、W.H.デービスの言葉が引用されている。
「さて、歩くべきか乗るべきか
乗れ! 快楽が言った
歩け! 歓喜が答えた」
もうこれだけで、じゅうぶんだ。
この本は、『歩く』という人生を踏みはずすほどに素敵な遊びがある、ということを教えてくれるのだ。

道具に関しては、さすがに古い部分がいっぱいある。でも、そんなことが気になるほどやわな本じゃない。久しぶりに読みなおしてみて、「すぐにでも出かけなければ」と、地図を眺めている毎日である。

こちらは、『ウォールデン 森の生活』(ヘンリー・D. ソロー 著、今泉吉晴訳)。小学館が、2004年に新訳で発行した一冊。 19世紀末にヘンリー・デビッド・ソローが、ウォールデンの森で暮らし、その暮らしをつぶさにつづった本だ。「米文学史上に輝く名著」といわれているが、この本を途中で寝ずに最後まで一気に読んだ、という人にぼくはいまだ出会ったことがない。もちろんぼくも、何度も居眠りを繰りかえしながら、この長い本を読んだのだった。

こちらは、『ウォールデン 森の生活』(ヘンリー・D. ソロー 著、今泉吉晴訳)。小学館が、2004年に新訳で発行した一冊。
19世紀末にヘンリー・デビッド・ソローが、ウォールデンの森で暮らし、その暮らしをつぶさにつづった本だ。「米文学史上に輝く名著」といわれているが、この本を途中で寝ずに最後まで一気に読んだ、という人にぼくはいまだ出会ったことがない。もちろんぼくも、何度も居眠りを繰りかえしながら、この長い本を読んだのだった。