秋の夜長に、血迷ってドキュメントトレイを作ってみた

秋の夜長に、血迷ってドキュメントトレイを作ってみた

僕は、整理整頓がまったくできない。 あまりにひどすぎるので、大事なものだけでも整理できるトレイを作ることにした秋なのだ。 禁を破って、たまには役立つ道具を作ることにしたのだ。

「役に立たないDIY」が、わが信条である。役に立つものを作ってはいけないのだ。 役に立つものは、だれかが作る。あるいは、だれにだって作れる。 が、今回ばかりはちょっとばかり役立ちそうなものを作ることにした。 それもこれも […]

「役に立たないDIY」が、わが信条である。役に立つものを作ってはいけないのだ。
役に立つものは、だれかが作る。あるいは、だれにだって作れる。
が、今回ばかりはちょっとばかり役立ちそうなものを作ることにした。
それもこれも、「秋風索莫」のせいにしておこう。

「片づける」という習性や習慣、センスや努力などなど、ことごとくを母親の胎内に忘れて生まれ出てきたわたくしである。
僕の部屋はいつも、キングコングがひと暴れした後のような様相である。
「こんまり」が何人よってたかっても、この部屋は片づかないだろう。自慢にもならない変な自信があるほどだ。

そうした部屋には、「大事なものほど、がらくたの奥に隠れる」という法則が生まれる。
たったいまも、今日中に納めなければならない請求書の行方を朝からずっと探しているありさまだ。
時代ともに郵便物は減ってきたが、それでも必要な郵便物もあるのだ。

いまの時代、なにか作ろうとすると、インターネット検索すれば、たいていのものの「How to」を見つけることができる。作り方を知るのは、推理小説の犯人やトリックのネタを先に知るようなもんである。自分で考えるのが楽しいのになぁ。
ま、僕ごときには理解できない人間が、世の中にはいっぱいいるということだ。こうれもまた、生物多様性ということなのだろう。

そこで、ドキュメントトレイ(レタートレイとも、ペーパートレイとも呼ぶ)を買うことにした。大事な郵便物や書類ぐらいは整理しよう、と。
さっそく、近くのショッピングモールへ出かけてみた。
昨今のホームセンターには、安価で、便利商品が揃っている。
「お値段以上」といわれると、たしかにそうかもな、と納得してしまう。

しかし、わが物欲はまったく刺激されない。
安く、見た目もよく、便利そうで、、、、だけじゃ、だめなんだよな。
僕の脳みそは、「なにかが違うぞ」という警告を、奥の方で発している。
パスワードが合わないのだ。

材料は、ホワイトパインとアガチス、底板はベニヤ。それに真鍮の丸棒。

ふと思い立って、銀座へ出かけることにした。老舗文房具店巡りをしよう、と。
若きその昔(30年以上前だ)、原稿を手書きで原稿用紙に書いていたころ、何度も訪れたことがある。
原稿用紙や便箋、鉛筆、ペンなどを買い求め、高価な万年筆を眺めていた。

デザインで遊べるのは、箱の前面だけだったので、「波模様」など考えたけど、結局はシンプルな仕上がりを目指すことに。

いい文房具というのは、上質な美術品と同じだ。
ちゃんとした文房具屋さんへ行くのは、美術館へ行くようなもんである。
ホームセンターに比べると、「お値段、異常」で、目眩がする。
が、心は穏やかになり、わが目がバージョンアップしていくのだ。

で、結局のところ、ドキュメントトレイは自作することにした。
銀座のとある店で、ひとつの商品を手にしていたとき、「カチッ」と音が鳴り、脳内パスワードが合ったのだ。
「自分で、作ってみよう!」と。

出来上がったので、さっそく郵便物を入れることにしたけど、やはり、というか「あれま」という感じで、いまの世の中、大事な郵便物や書類などほとんどない。
ドキュメントトレイは、現代では無駄な道具かもしれない。

もうすぐ書類など、世の中からなくなるだろう。
そうすれば、このドキュメントトレイも役に立たない物体となるはずだ。
それでいいのだ!
結果として、「役に立たないDIY」となった。
ようするに、大成功なのだ!