大都会にたたずむ100年の森

大都会にたたずむ100年の森

『明治神宮』といえば、初詣の参拝者がいちばん多いことで有名だ。 春のある日、大都会にある明治神宮の森を歩いてみた。

東京に住む人なら、だれもが知っている『明治神宮』。 初詣で訪れた人もいるはずだ。また、七五三や結婚のお祝いを、ここでやったという人も多いだろう。 この明治神宮を囲む森を、歩いてみた。 この森は、人間が作ったものだ。 10 […]

東京に住む人なら、だれもが知っている『明治神宮』。
初詣で訪れた人もいるはずだ。また、七五三や結婚のお祝いを、ここでやったという人も多いだろう。
この明治神宮を囲む森を、歩いてみた。

この森は、人間が作ったものだ。
100年前。ここは、荒涼たる景観が続いていた、という。
ここに「永遠の森」を作ろう、という計画が生まれたのだ。
めざしたのは、永遠に続く森。
数百年前に、東京に広がっていただろう常緑広葉樹の原生林である。
かかわったのは、3人。
日本初の林学博士である、本多静六。そして、その弟子の本郷高徳と、上原敬二。
「林苑計画書」を作ったのは、この3人だといわれている。

ところが……。
「明治神宮に藪のような森を作るのは、まことによろしくない。伊勢や日光のような、杉林にしたまえ。」
と、反対の声が。
当時の総理大臣である大隈重信だ。
ま、いつの時代でも「ほんとうの問題児」は、だいたいが「偉い人」だ。
しかし、3人の学者たちは譲らなかった。
権力を振りかざされるほどに、自分たちの信念に燃え、とうとう広葉樹の森を。総理大臣に認めさせたという。

4月7日(土)、8日(日)におこなわれた『アウトドアデイジャパン東京2018』で、川崎公夫とぼくは、参加者とともに明治神宮の森を歩いたのだ。

4月7日(土)、8日(日)におこなわれた『アウトドアデイジャパン東京2018』で、川崎公夫とぼくは、参加者とともに明治神宮の森を歩いたのだ。

そんな話を聞きながら、歩く。
話をしてくれたのは、川崎公夫(かわさききみお)。
日本各地で、長く環境調査をやってきたナチュラリストだ。
いや、ナチュラリストという言葉は、ちょっと甘いな。
森や山や野を歩き回ってきた男だ。

落ちている鳥の羽根を手に、川崎公夫は「これは、右手の外側に生えていた羽根だ」とその理由を説明。

落ちている鳥の羽根を手に、川崎公夫は「これは、右手の外側に生えていた羽根だ」とその理由を説明。

鳥の話を中心に、公夫の森の話が続く。
いまでは、森林性の鳥が増えてきた、という。
自然の森になってきた、ということだ。
この地にふさわしくない樹々は枯れ、相性が合う木が生き残る。
樹木は自然淘汰され、東京の原始の森となったのだ。

モグラ塚を前に、子どもたちは穴に手を入れる。「ついさっき、ここをモグラがとおったんだよ」と公夫。

モグラ塚を前に、子どもたちは穴に手を入れる。「ついさっき、ここをモグラがとおったんだよ」と公夫。


都会の鳥は、人慣れしている。くつろいだ様子のハシブトカラスは、近づいても逃げるそぶりを見せない。

都会の鳥は、人慣れしている。くつろいだ様子のハシブトカラスは、近づいても逃げるそぶりを見せない。

この森で確認された鳥類は、3,000種にのぼるといわれている。
その頂点にいるのが、オオタカだ。
数年前から巣を作り、繁殖も確認されている。
われわれが訪れたときも、抱卵しているらしく、巣から動かないオオタカが!

樹々の向こうにオオタカの巣が! どうやら、抱卵しているようだ。この春も、江戸っ子のオオタカが巣立つのだろうか。

樹々の向こうにオオタカの巣が!
どうやら、抱卵しているようだ。この春も、江戸っ子のオオタカが巣立つのだろうか。

東京23区でオオタカの繁殖が見られるのは、ここだけかもしれない。
残念ながら、ほ乳類はさすがに少ない。
どこかの森や山とつながっていれば、この明治神宮の森には、ムササビやリスなどのほ乳類も住み着くのにな。
が、都会にもときどき出現するホンドタヌキが、いつからかこの森に住み着いている、という。
運がよければ、タヌキにも会える(もっと運がよければ、タヌキと「化かし合い」ができるかも……)。

ヤマガラが住む森。 150年が100年で戻った、ということにも感心しきりだが、150年後を考えて森を作った人たちがいた、ということに、ぼくは励まされるのだった。

ヤマガラが住む森。
150年が100年で戻った、ということにも感心しきりだが、150年後を考えて森を作った人たちがいた、ということに、ぼくは励まされるのだった。

大都会のすぐ脇にも、自然がある。
そしてそれを感じることができるのだ。
でもそれは、明治神宮の森だけの話ではない。
みんなが住んでいるすぐ近くの森や川にも、それぞれの自然がある。
いつも歩いている公園にも、それぞれの自然がある。
もうちょっとゆっくり歩いてみようかな。
地面にも注目したい。木々の様子も、注意深く眺めてみたい。
そして、風や鳥の歌が聴こえるように、耳も済ませたい。
そんなことを教えてくれる、公夫の「都会の森体験トレッキング」だったのだ。

この100年、東京は急激に都市化。だれもが想像できないスピードで。
そして、明治神宮の森を作った3人の学者も、想像できなかったことがある。
それは、150年計画だった森が、しっかりした計画のもとなら、100年で樹木も生き物も根づく自然に戻る、ということだ。
森の力は、3人の天才以上だった、ということか……。

明治神宮の森を歩いて、唯一残念なのは、森の中へ入れないことだ。参道や歩道以外、森の中はすべて立ち入り禁止。もちろん、その理由はよくわかる。 でも、「道を踏みはずす」ことを信条としているぼくとしては、うっそうとした森の中をさまよいたいのだ。

明治神宮の森を歩いて、唯一残念なのは、森の中へ入れないことだ。参道や歩道以外、森の中はすべて立ち入り禁止。もちろん、その理由はよくわかる。
でも、「道を踏みはずす」ことを信条としているぼくとしては、うっそうとした森の中をさまよいたいのだ。