青森県東津軽郡平内町に、夜越山という山がある。
標高は175m。「丘」と呼ぶほうがいいかもしれないけど、海からすぐに位置するので、独立峰のように目立っている。立派な山なのである。
町営のスキー場もあるが、県内の人にもそれほど知られていない。
さらには、同じ平内町内に、「ブルーモリス」というスキーメーカーがある。
テレマークスキーでは、「ブルーモリス」のステップソールの細板を、僕もずいぶん前から履いている。ようするに、好きなブランドのひとつなのだ。
ならば、「ブルーモリス」が出している「スノーハイク」という板で夜越山を歩こうじゃないか、ということになった。
「スノーハイク」とは……。
長さが130cm。サイドカットは125-99-120cm。短く太いスキー板だ。
滑走面は、シールが貼ってあるかステップカット加工がされているので、登りも滑りもだいじょうぶ。どんなブーツにもフィットするヒールフリーのビンディングがついている。
スキーとスノーシューのいいとこ取りの道具である。
この板を履いて、夜越山へと向かったのだ。
夜越山には、スキー場があり、リフトがある。
が、スキー場では遊びたくないので、スキー場の裏側から山を登ることにした。
ゲレンデは自動車教習所のようなもの、と僕は思っている。遊ぶ場所ではないのだ。
好きな女の子をドライブに誘うとき、教習所へ連れていかないだろ?
それに、ゲレンデにはたいてい音楽がかかっている。それも、J-Popが。
「スギ花粉」も「蕎麦」も「小麦粉」も、それに「女性」もだいじょうぶなんだけど、「J-Pop」だけはどうしても苦手であるのだ。
なので、ゲレンデへは行かないのである。
ま、そんなふうにゲレンデへ行かない(行きたくない)理由をつらつらと書き出すときりがないので、その話はまた今度。
この「スノーハイク」での歩きは、思った以上に楽だ。
いや、それ以上である。歩くほどに、楽しみが沸いてくるのだった。
(「思った以上に」などと書くと、この道具のことを期待していなかったようだけど……。すまぬ。スノーハイク)。
登りでは、スキーのように足を滑らせて歩くことができる。深雪でも、テレマークスキーでのラッセルと同様の感じで歩ける。
また、ビンディングもブーツにしっかりフィットしたので(ブーツとの相性もあるだろうけど)、ストレスがない。
そして、板に太さがあるせいか、思った以上に浮力があり、滑りでの不安も小さい。
きびしい山をがつがつ登りたいと思っているわけではない。パウダーの急斜面を華麗に滑ることを夢見ているわけでもない。
そんな僕のような人間が、好天気に誘われて雪のウラヤマをのんびり闊歩したい、と思ったときにぴったりの道具なのだ。
ウラヤマには、動物の足跡が縦横無尽に走っていた。
シカ、ウサギ、テン、リス、ネズミ、キツネなどなどが、夜ごとこの山を闊歩しているのだろう。
ウサギの足跡を追いかけるように、キツネの足跡が続いている。ウサギの匂いを嗅ぎながら、よだれを垂らし追いかけたに違いない。
日夜、動物たちはここで厳しい冬の生活を送っているのだ。
クマの痕跡も探したが、見つけることができなかった。
そういえば、昨年の夏。外来種であるハクビシンの車にはねられた死体を、この近くの道路脇で見かけた。この山にもいるかもしれない。
夜越山でのスノーハイクは、生き物の息吹が聴こえてくる。
いつものように、僕の頭の中のウラヤマには、たくさんの動物たちが行き来しているのだ。
まだしばらくは雪山遊びシーズンが続く。
つぎは、どこへ行こうかな。