野生(ワイルドライフ)がこれほど身近にあるキャンプ場が、ほかにあるだろうか。
先の週末、『ムササビの夜』イベントで、栃木県男鹿高原の「ワイルドフィールズおじか」へ行ってきた。
キャンプ場へ入るとすぐに、シカの鳴き声が聞こえてきた。
「ワイルドフィールズおじか」へ着いたな、という気持ちが高まってくる。
キャンプ場のすぐ横を流れる川では、産卵床を作り終えたメスのヤマメがいままさに産卵のときを迎えようとしている。
大きなオスヤマメが、メスに近寄り産卵をうながす。その周りでは、ほかのオスヤマメもそわそわと落ちつかない。素敵なメスが近くにいると、オスは落ちつかないものなのだ。
すぐ上流には、産卵が終わったばかりのメスヤマメが産卵床を守っているらしき様子も。
何時間でも見ていたい光景が、川の中そこここに繰り広げられている。
森の中を歩いてみると、いたるところ動物の痕跡があふれている。
シカやイノシシの足跡や糞。
それに、ツキノワグマの爪痕を木肌に見つけ驚くことも。いくつもの場所に、糞も落ちている。
木の上にはクマ棚と呼ばれる、ツキノワグマが食事をした跡を見つけることもできる。
小さなものに目を向ければ、ネズミやリスなどの痕跡を見つけることもできる。
そうした動物たちを実際に見ることはむずかしい。
うそつきで面倒くさい人間になど、動物たちは会いたくないのだ。
だから、人間の気配がするとすぐに森の奥へ入ってしまう。
が、森に残った足跡や糞や食痕などの痕跡(アニマルトラックとも、フィールドサインとも呼ばれる)は、いろんな場所で見ることができる。
注意深く森を歩けば、野生動物の残したフィールドサインが多いことに気がつくだろう。
数々のフィールドサインから、動物の動きを想像してみると、まるで彼らの生活をのぞき見ているようで、妖しくも楽しいものだ。
やがてはじまるきびしい冬を前に、動物たちはせっせと日々を暮らしているのだ。
「お前も、しっかり生きてるか?」と、問いかけられているようでもある。
道なき道を歩いていけば、足はとどまるところを知らない。
男鹿の森は、地面にも、木の上にも、木肌にも、楽しみが隠されている。
目を閉じると、ツキノワグマがのっしのっしと歩いている姿が見えてくる。イノシシは地面に顔を突っ込んで餌をあさっている。
こうして、いつまでも飽きることなく、どこまでも道を踏みはずしてしまうのだ。
(写真=山田真人)