ビールをひとりで静かに飲んでいても、「クール」な感じはあまりしない。
しかし、カクテルとなると、とくにジンとドライベルベットのマティーニをひとりたしなんでいる姿は、これはもう「クール」以外のなにものでもない。
が、外遊びのひとりの夜に、そんな気障なことはしないのだ。
いや、したくないのだ。
やはりカクテルは都会の深夜の飲物、という感じが強い。
と思っていたら、スタンレーからカクテルな夜を過ごすための独創的なシェイカーが発売された。
スタンレーといえば、創業100年以上の真空断熱ボトルのトップメーカーだ。色使いや形にノスタルジックな匂いがあり、僕もいくつものスタンレー商品を使っている。野外でも都会でも。
そんなスタンレーが、わが物欲心くすぐる商品をまたまた発表したのだ。
カクテルセットの名前は、「ハッピーアワーシステム」。
計量カップになるふたとダブルウォールのステンレスカップがふたつ。果汁しぼり器とカクテルシェイカーがセットになっている。しかも、それらすべてがシェイカー内に収まってしまう。
手にして眺めているだけで、「幸せなとき」が過ごせそうな商品なのである。
これで作るカクテルは、小粋なジャズを聴きながらひとりで気障に飲むものではない。なぜならカップがふたつついている。
焚き火を前に女の子とふたりでソルティドッグを、という幻想を抱いてしまうのである。
そこでさっそく、前々から気になっていた女の子を「カクテルなキャンプはどう?」と誘ってみたのだ。
でもよくよく考えてみると、焚き火とカクテルなんてのは、「下心」の塊のような組み合わせではないか。
「ハッピーアワーシステム」を前に、テキーラの分量を慎重に測ったり、ライムを力強く絞ったり、シェイカーを顔の横で振り回したり……。
がんばってソルティドッグ・コリンズをテキーラベースで作ってみたけど、やっぱりあまりにも「気障」すぎるようだ。
「このおじさん、バッカじゃないの!」てな顔して、彼女はあきれている。
どうやら、スタンレーが思うところの「ハッピーアワー」と、僕が抱く「ハッピーアワー」には、ちょっとした隔たりがあるようだ。