知り合いのフランス人が、「日本には安心できるいい車がいっぱいあるのに、どうしてお前はフランスの車に乗っているんだ?」と笑う。
「いや、こんなマットな黄色の車は日本にないから」と、答えておく。
ちなみに、彼はトヨタの車に乗っている。「故障知らずだ」と、満足げに。
僕が乗っている車は、ルノー/カングー(カングーは、フランス語でカンガルーのこと)。
現行のものより、ひとつ前のモデルだ。
数年前、カングーがフルモデルチェンジしたとき、「あれっ?」と、大慌てでこのモデルを探したのだった。
しかもマニュアルシフトを(マニュアルシフトを選択したのは、ボケ防止のためだけど……)。
もちろん、アウトドアフィールドへ車で出かけることが多い。ときには未舗装の山道を走ることもある。河原への砂利道をおりることも。雪道を走ることも。
でも、スパルタンなごっつい車には、もともと興味がなかったのだ。
そもそもひねくれているから、「外遊びが大好きです」という振りはしたくないのだ(なんせ、法螺吹き男爵だから)。
それと、オフロードを「どしどし」と走しりそうな車に、あまり美しさを感じることがなかったし。
とはいえ、いろんなところへ出かけていくので、ぬかるみや砂地、雪道でスタックしたことは多々ある。
テレマークスキー旅への行き帰りで苦労し。川下りカヌーで河原へ入ったときにはびびり。土砂降りが続いた日には、キャンプ場から脱出することすらできなかった。
そういえば、ついこのあいだ。1月に関東で大雪が降った日の早朝。わが家近くの登り坂で立ち往生。とりあえず車をなんとか道路わきに停めて、家までの300メートルほどを歩いて帰った。情けない話だけど(ちょっとばかり言い訳をさせてもらうと、僕が住んでいるのは東京でも有数の雪国(?)だし、坂だらけの地域で、しかも坂のずっと上のほうにわが家はあるのだ)。
カングーが、本国のフランスでどのような立ち位置にいるかは知らない。
僕の中では、「エスプリにあふれた小粋な商業車」というイメージだ。もちろん、「エスプリにあふれた」とか、「小粋な」というのは、わが圧倒的主観である。
パリ市民の幸せを運ぶ花屋さんの車、という感じである。あるいは、秘密の逢引き帰りにフランスパンを買って帰るマダムが乗る、というのも似合うな(「逢引き」なんて言葉は死語か?)。
パリジェンヌがこれを読んだら、「パリでは、これくらいのおしゃれは当り前よ」と鼻で笑らうかもしれないけど。
ま、そんなわけでわがカングーは、まったくもってアウトサイドに向いた車ではない。
でも、僕の中では、はっきりとアウトサイダーな車なのだ。
それは、僕にとってカングーは、移動式隠れ家だからである。
いってみれば、「隠し事」がばれそうなときに、逃げ出すためのヴィークルなのだ。
隠し事を満載して、あるいは隠し事を燃料に走るのである。
でも、「隠し事」という言葉は、いいかえると「夢」である。
だから、わがカングーは「夢」を満載して、今日もフィールドへとひた走るのだ。
助手席には、笑顔が素敵な人が座っている。
でも、隠れ家にしては、ちょっと目立ちすぎるのが難点だな。