15年ほど前のこと、ブラジルを旅したことがある(いま調べてみたら、2002年のことだった)。
3週間ほどのブラジル旅は刺激的なことばかりで、毎日「そんなんありか!?」と、あきれたり、びっくりしたり。そのひとつずつをこと細かく書いていくと一年以上かかりそうなので、ここではやめておこう。
今日は、ハンモックの話を。
ブラジルでは、ハンモックは昼寝の道具でも癒しの道具でもない。生活の道具なのだ。
アマゾン川流域のでかい町マナスルでは、商店街の寝具売り場に、ハンモックは寝具として売られていた。ベッドや布団と同じ扱いで。しかも、売り場面積の半分ぐらいをハンモックが占めている。
さらによくよく観察すると、サンダル履きのおばさんおじさんはハンモック売り場に、ちょっと高そうな服を着ている人たちはベッドや布団売り場を歩いている。
町を歩くと、安価なハンモック専門の屋台店まである。屋台に集まるのは、もちろんワーキングクラスの人たちだ。
そう。ハンモックはアマゾン流域では庶民の寝具なのだ。
そんな店のひとつでぼくはハンモックを買い、それを抱えてアマゾンを漂う船に乗り込んだのだった。
三泊四日でアマゾン川を下って、マナウスから河口の町ベレンへ向かう船だ。
この船にはハンモック持参じゃないと乗れない。船にハンモックを吊って寝るのだ。
ハンモックに揺られて三泊四日、と書くと優雅そうだが、そんなに甘いもんじゃない。定員なんて言葉のない国だ。
超満員だなと思うその三倍ぐらいの人間が、この船に乗っている。
オイルサーディンの缶に詰め込まれた鰯のように、船内にはぎっしりとハンモックが吊り下げられる。
ハンモックの前後上下を少しずつずらして吊すことで、すき間がぎっしりと埋まっていく。
ほんとハンモックじゃなかったら、床面積から考えて、これだけの人間が寝ることはできない。もっとも、床にこの距離で見知らぬおじさんと枕を並べるのだったら、勘弁してくれ、と逃げ出しているだろうけど。
ハンモックは高温多湿だけではなく、人口過多にもいいようだ。
このアマゾン旅で、ぼくはハンモック熱にやられてしまった。
すっかりハンモックでの生活が身に染みてしまったのだ。
それからというもの、夏になるとハンモックだ。家でも、キャンプでも。
家では、ブラジルで買ってきたブラジリアンタイプのハンモックを部屋に吊るし毎晩寝ている。エアコンいらずの夏となる。
そして、キャンプではモスキートネットつきのヘネシーハンモックである。
高温多湿の日本の夏に、これほど向いている寝具はない。
梅雨が明けたら、今年もぼくの「ハンモックの夏」がはじまる。