この季節、日暮れは早い。
日が落ちると、山には静けさとともに、寒さが大波のように押し寄せてくる。そんな夜には、熱々の料理を食べ、さっさとテントへもぐり込み、暖かいダウンの寝袋にくるまれていたいもんだ。
月明かりに照らされたテントの天井を眺めていると、やがてそれが夢の景色にかわっていく。そんな時間が大好きだ。
が、ちょっと待ってくれ。せっかくの冬の山旅である。
しかも今夜は、大好き女の子といっしょだ。
寒さと少しばかり向きあって、ちょっと散歩へ出かけようではないか。月もぼくたちの味方をしてくれている。
冬の月夜は、ほんとうに明るい。空気が澄んでいるからだろうか。それとも、気温が低いことで、月の光にも暖かさを求め明るく感じているだけなのだろうか。
いずれにせよ、冬の月夜はなにかせずにはいられない。
森を歩くと、月光が作る影におどろくことしばしばである。
夜にうごめく木の影やシルエットは、数々の月夜の神話が生まれ出てきた背景なのだろう。うまくすれば、今夜、新しい神話をかいま見ることができるかもしれない。
満月の夜、山には不思議の国が舞いおりてくる。
月明かりの森をもっと堪能したいなら、どこか風の当たらないところに座りこんでみることだ。
集めた枯葉の上にマットを敷き、ふたりでペンドルトンのブランケットにくるまればいい。
月は静かに動いていく。月の明かりに誘われたムササビが、人知れずぼくたちの頭上を飛んでいく。フクロウのしわがれ声も聞こえてくるだろう。
ウールのブランケットは、こんな夜を過ごすために生まれてきたのだ。
ブランケットにくるまって月夜に浸透していくと、いつかロケットに乗って月へいきたい、と思っていた子どものころがよみがえってくる。月はあのときからいまもかわらずそこにある。
月は、ずいぶんと年をとっていて、とても賢そうに見えるのはなぜだろう。
こんな夜は、月までの長い距離のことを想像しながら、少しのあいだ黙っているほうがいいな、などと思ってしまうのだ。
ぼくたちは、ブランケットの中で距離をもう少し縮める。
と同時に、「グリューワイン(ホットワイン)をポットに入れてくれば、完ぺきな夜になったのにな」などと、俗っぽい後悔をしはじめてしまうのだった。