自然素材の道具。これらはけっして過去の道具ではない。
たとえば、フライフィッシング用のバンブーロッド。
簡単にいってしまえば、竹竿だ。が、この簡素で優雅な竹竿を手に渓流へ立つと、風景が違って見えてくる。というか、カーボンロッドを手に「さあ、釣るぞー!」と息巻いてるときには風景なんて見ていなかったんだけど、バンブーロッドを持つと、川とのつきあいがゆったりになる。釣ることに一生懸命にならない自分がいるのだ。ぼくにとって、バンブーロッドはそういう道具だ。
あるいは、ウッド&キャンバスのオープンデッキカヌー。
その名のとおり、木と帆布で作られたカヌーだ。人類の叡智と技術が詰まっている。このカヌーで川旅へ出ると、川との一体感を感じられる。きびしい瀬を前にして、「よし。この瀬を征服してやる」などとはぜったい考えないのだ。カヌーとともに川の流れに身を託す心地よさを教えてくれる道具なのである。
共通しているのは自然素材でできている、ということ。そして、伝統的な製法で作られてきたものたちだ。こうした道具は、目にも優しい。ある種、旅の精神安定剤でもある。
それらが発する音も、耳に心地いい。
そういえば、大人数が集まりそれぞれが勝手にしゃべり出すと、だんだん声が大きくなっていく、という現象がある。自分の話を両隣の人に伝えたいから、声がどんどん大きくなってしまうのだ。しかし、全員が意識して小さな声でしゃべれば、場は静まり、大勢がいるということを忘れ会話は静かに流れていく。
ぼくは、自然素材の道具に、そうした美しさを感じているのだ。
ゴアテックスに背を向けているかのようなオイルドのジャケットもそうだし、アコースティックな楽器。アルコールストーブや職人が縫い上げた革のブーツ。
それに、木の椅子やテーブルも、そうだ。
最近は、日帰りや一泊二日のバックパッキング旅であれば、折りたたみ式の小さなテーブルを持ち歩いている。バックパックの横のポケットに差しこんでいくのだ。
ぼくが使っているのは、「Ciel Bleu(シエルブルー)」のU.L Rolltop Table(タイトル写真のもの)。
U.L(ウルトラライト)とはいっても、山旅でぜったいに必要な道具ではない。それでも約300gのこれを持ち歩くのは、ゆとりが欲しいからだ。旅に、それぐらいの余裕をもちたい、という思いからだ。
同時に、「地面との距離が近い」というのも大好きな感覚だ。背の低いテーブルに向かうと、地べたに座って、あるいは寝ころんで、の時間を過ごすことができる。なんだか、『ものぐさ』な感じで、いいじゃないか。
某日、某山。このテーブルを前に、女の子とふたりでシンプルな晩ご飯を食べていたあるときのこと。
なんたって、天板が約20cm x 約30.5cmの小さなテーブルである。ふたりの距離は、すごく近くなる。
そのときぼくは、女の子との距離の近さより、ふたりの会話のトーンがすっかり気に入ってしまったのだ。
小さな木のテーブルが、「小さな声の方が、はっきり伝わることがある」と、教えてくれたのだ。