賢者は旅をする。愚か者は語る

賢者は旅をする。愚か者は語る

昨夏、北アルプス縦走旅をした。 久しぶりの長旅に、「旅が日常となるような日々」を自分は欲しているんだ、とつくづく思い知った。 人は、ときにはひとりで長い旅へ出かけるほうがいいのかもしれない。

それにしても、どうして冒険家と呼ばれる人たちは、あんなに心臓がばくばくするようなことに夢中になるのだろう。命の危険をかえりみず、きびしい岩肌にへばりついたり、困難が待ち受ける高い山を登ったり。 『アドレナリン中毒』といっ […]

それにしても、どうして冒険家と呼ばれる人たちは、あんなに心臓がばくばくするようなことに夢中になるのだろう。命の危険をかえりみず、きびしい岩肌にへばりついたり、困難が待ち受ける高い山を登ったり。
『アドレナリン中毒』といってしまえばそれまでだけど、それ以上のなにかが心の底のほうで働いているのだろう。
いずれにせよ、アルコール中毒気味のぼくとは、対極に位置している人たちである。

しかし、こんなぼくでも、けっして望んではいないのだが、ときにはしんどい旅へ出てしまうことがある。それはたいていの場合、思いつきをうっかり口に出してしまったせいではじまるのだ。
飲み過ぎた夜に、旅の計画を立てるものではない。

昨年の夏、ぼくは北アルプス南北縦走を計画した。
上高地から歩きはじめて、日本海まで行ってしまおう、と考えたのだ。
北アルプスを自分なりの方法で旅をしてみたいな、と前々から思っていたのを、よくよく考えた結果が、「一気に縦走」というのがぼくにとっての答えだったのだ。
3週間の予定を立てた旅だった。天候やトラブルによっては、もうちょっと長引くことがあるかも、と考えていた。
久しぶりに長い旅だ。

旅に選んだテントは、テンマク/ローリーポーリー。ブーツは、ダナー/マウンテンライト。そしてバックパックは、ミステリーランチ/グレイシャー。旅のあいだ、どれもがぼくを支えてくれた。

旅に選んだテントは、テンマク/ローリーポーリー。ブーツは、ダナー/マウンテンライト。そしてバックパックは、ミステリーランチ/グレイシャー。旅のあいだ、どれもがぼくを支えてくれた。

早朝、まだ暗いうちに起きだして、テントを片づけ、ブーツの紐を結び、歩きはじめる。昼過ぎにその日の目的地に着き、テントを張り、夕暮れが来て、月が昇り……。
そして、また日が昇り、テントを片づけて、新しい一日がはじまる。新しい一日、といっても今日も歩くだけだ。
「人生、山あり谷あり」なんて言葉があるけど、北アルプスには山と谷しかない。そこを延々と歩くのだ。もしかしたら、ここは人生よりきびしい場所かもしれない。

結局のところ、旅は順調に進み、17日間で歩きとおせた。
日本海に到着したときは、「達成感」というより「もう歩かなくていいんだ」という不思議な感慨が強かったことを覚えている。
いずれにせよ、旅のくわしい話は、ここにはとても書ききれない。
この北アルプス縦走旅に興味がある人は、雑誌「PEAKS(ピークス)」(えい出版社)の3月15日発売の4月号から4回にわたる短期連載で書くので、覗いてみてください(1回目は、現在すでに発売中)。

北アルプス縦走旅は、槍ヶ岳を越えることからはじまった。そして、その槍ヶ岳は旅が進んでも、ずっと存在感を失わなかった。

北アルプス縦走旅は、槍ヶ岳を越えることからはじまった。そして、その槍ヶ岳は旅が進んでも、ずっと存在感を失わなかった。

この長い旅ではっきりしたことは、自分にぴったり合うバックパックとブーツに出会えれば、どこまででも歩いていけるぞ、ということだ。
これは、20年前にも同じことを思っていたな、ということ再認識したというだけのことかもしれないけど。
でも、今回は道具の話ではない(『外遊び道具考』というこのブログだけど)。

ひとりでの長い旅は、人に思わぬ影響を与えるものだ。
でも、長い旅が人にとってどういう意味をもつのか、ぼくにはわからない。
ただ、旅から帰ってきたぼくは、旅へ出る前のぼくとはちょっと違っていた。そのことは、実感としてある。
旅というのは、そういうことなんだな、と切実に思ったのだ。

久しぶりの長いひとり旅だった。少々の危険と不便。人は、それでも出かけていく。それは、「一歩外へ出れば、なにかが待ってる」というあてのない幻想が、じつは幻想ではない、ということを知っているからだ。

久しぶりの長いひとり旅だった。少々の危険と不便。人は、それでも出かけていく。それは、「一歩外へ出れば、なにかが待ってる」というあてのない幻想が、じつは幻想ではない、ということを知っているからだ。

昨夏の縦走旅を終えて、ぼくは「遊びと勉強は、いい加減にやるものではない」と、いまさらながらに思い知ったのだ(若いころ勉強をしなかったから、いまになってせめて遊びだけは本気でやろうと思っている節もあるけど)。
春になり、暖かくなるとともに、またまた気持ちがうごめきはじめた。
今年も、「自分のバージョンアップにつながるような旅へ出たい」と、地球儀を眺める時間が多くなってきたのだ。
いつまでも、『COOL but NATURAL(かっこよく、かつ自分らしく)』でありたいし。
みんなも、いい旅を!