「アンダーウェアは、ウールがいちばん」てなことをさぞ知ったふりをして話をしたら、昔の人に笑われる。
当たり前だったのだ。
1960年代や70年代には、「山へ行くならウールを着ろ」と、ごくふつうにいわれたものだった。
「下着はラクダがいちばんだな。やっぱり」などと……。
ところが、1980年代に入って、化学繊維の下着が登場してきた。
ポリプロピレンやクロロファイバーなど、吸湿性がない繊維を使ったこれらの下着の登場に、当時はびっくりしたもんだ。
濡れても軽く、冷たさを感じにくい。しかも乾きが早いというこれらの化学繊維は、とくに、積極的に水に濡れるカヌーや沢登りをやるときには、魔法の下着だったのだ。
ただ、ポリプロピレン素材のものは肌触りが悪く、着ていて不快だった、という印象が強く残っている。
その後、キャプリーンに代表されるポリエステルの極細繊維で編まれた生地のアンダーウェアが台頭してきた。
不快感はなくなり、機能性も優れている。
こうして、「アンダーウェア革命は、これにて終了」という感じだったのだが、21世紀に入って、ふたたびウールが脚光を浴びだしたのだ。
メリノウールだ。
メリノ種の羊からとれる羊毛は、ほかの種のものより繊維が細いのが最大の特徴だ。
ソフトで肌触りがよく、ちくちくしないウールなのである。
その上、ウールの特性から……。
・汗冷えしにくい。
・吸湿性、発散性により蒸れにくい。
・夏は涼しく、冬は暖かい。
・汚れにくい。
・汗くさくなりにくい。
などなどなど、いいことだらけなのである。
そういえば、汗くささなどの匂いもそうだが、化学繊維のアンダーを真夏に長く着ていると汗疹になりやすい。
ウールは、こうした悩みからもぼくを救ってくれた。
昨夏の十七日間にわたった北アルプス南北縦走でも、ウール素材のアンダーウェアのおかげで、日々を快適に過ごすことができたのだ。
そして、今冬のバックカントリー旅にも、下着はやっぱりウールである。
いまや(ふたたび、というべきか)、ウールのアンダーが手放せなくなってきた。
でも、ウールに対してぼくがいちばん気に入っている点は、やはりそれが自然素材だ、ということかもしれない。
そこにあるだけで、温もりを感じる素材である。
肌に直接触れるウェアとして、この「温もり」という感覚は、機能としての数値には置きかえられないけど、ぼくは大切な部分だと思うのだ。
化学繊維同士が触れての、「カサカサ」「シャリシャリ」といったカタカナ的な音がしないのも、天然素材ならでだ。
「羊とのスキンシップ」などというと、あまりにも比喩がすぎるけど、アンプラグドなウェアを身につけているのは気持ちがいいもんだ。