天体望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、ルーペなどの光学機器メーカーとして創業66年を迎える株式会社ビクセンが、なにやら「楽しそうな『外遊び道具』を作っている」といううわさを聞いたので、さっそく遊びにいってきた。
「星を見る人と、外遊びをする人は違う人たち。その間に風穴をあけたかった。相互交流が起こると、新しいものがはじまる」と、社長の新妻和重さん。
「『天体メーカーが考えるとこうなる!』という『外遊び道具』を作りたいんです。革命は、まさにそこにある」というわけだ。
さらに、「われわれは『星を見せる会社』でありたい、と思っているんです」と、新妻さん。
そんなビクセンでは、「宙(そら)」をテーマに、いくつも商品開発が進められている。
光学機器メーカーとしては、異色の商品ラインナップなのだ。
たとえば、夜空をテーマにしたステーショナリー。
日記帳には、月齢を書き込む欄があり、途中には太陽系惑星のコラムが。
薄くて軽いアルミ定規は、太陽系惑星の距離を15cmに置き換え土星までのイラストが並んでいる。 定規上に惑星の距離感が再現されているので、「水・金・地・火・木・土」と見て、思わず「へぇー」と感心してしまう。この定規を見るまで、惑星の距離感を意識したことはなかった。
商品ラインナップでの驚きは、ステーショナリーだけではない。
帆布のトートバッグや防水断熱のネオプレーン素材のシートは、天の川と夏の星座と満月が反射材でプリントされている。
そして、寝転がって宙(そら)を眺めるためのコット。
底に満月がデザインされているシェラカップ(まもなく発売)も。
また、「コケ観察セット」なるものも。
高倍率で見口の広いメタルのルーペと、スプレーボトル、それにコケ観察ガイドブックなどがセットになっている。
コケは根がなく身体全体で水を吸収するので、乾いたコケに水をかければ、たちまち元気になるコケの様子を観察することができる。そのためのスプレーボトルだ。
しかも、コケに最適量の水が噴射できるようノズルに、「これでもか!」とこだわった。
スプレーメーカーの協力を得て、コケを観察するためにベストなスプレーボトルをわざわざ採用した、という。
光学機器メーカーとしてルーペへのこだわりはわかるが、どうしてスプレーボトルにそこまで……。
さらには、ガイドブックがつく。
コケ観察の基本と、さまざまなコケが図鑑のように並んでいる。こうした内容が、水に強いストーンシートにプリントされている。
「自然の中で遊ぶための道具は、取扱説明書よりガイドブックこそが重要」と、読み物としても楽しい、しっかりした内容だ。
『星を見せる』姿勢は、『足もとの星』である地球をもじっくり見てもらおう、と働きかける。
そうした話を聞きながらグッズを手にすると、物欲心がうずくなぁ。
いや。物欲心だけではない。
「もの作り」の心も燃えてくるのだ。
「くだらない」とか「無駄だ」と思われることにこだわる心意気!
だれも気がつかない小さなところに、全身全霊で挑むその姿!
僕はそれを、「世界でいちばん美しい行為」と思っている。
もう何年も前のことだけど、ムササビウイング(テンマクとのコラボで作ったオリジナルタープ)を作りたいと思ったのは、「ときには星を眺めながら眠る」が動機だった。
その動機を形にすべく、サイズやデザインにとことんこだわったのだった。
ふと、そんなことを思いだした。
ビクセンと共謀して、ムササビウイングの内側に、「天の川と夏の星座、それに満月」を反射材でプリントできないかな。
今度、相談してみよう!