僕は、いまだ地面にじかに焚き火をしたいと思っている「不埒」な人間である。焚き火台など使わずに。
いや、もちろんわかっているよ。それがどういうことか、ってことは(わかっているつもりだけかもしれないけど……)。
いまや、フィールドに多大な迷惑をかけず焚き火ができるのは、シーカヤックか川下りカヌー旅ぐらいかもしれない。
もう30年も前だけど、カナダのジョンストン海峡を旅したときは、「ハイタイドライン以下で焚き火をするように」といわれた。そして、アラスカのグレイシャーベイでも同じことをいわれた。
ジョンストン海峡では、すべての料理は焚き火でまかなった。焚き火台なしで。
が、グレイシャーベイでは流木がほとんど手に入らず、ガソリンストーブで料理をした。
「ハイタイドライン以下で」というのは、満潮ラインより下(海側)の海岸で焚き火をしろ、ということだ。
干満がほとんどない日本海では考えられないが、干満が大きな海では、満潮になって波が押し寄せることで焚き火のあとを海が消してくれる。
だからといって、焚き火のあとをそのまま残していい、というわけではない。
波が洗ってくれはするが、キャンプ地を去るときにはそこに寝泊まりしたという跡を残すべきではない。
それは地球に対する礼儀である。
そして、つぎにこの場所へ来る人への心づかいでもある。
僕がいちばんうんざりするのは、シーカヤックで上陸した浜に、黒く汚れた焚き火のあとが残っているのを見つけたときだ。
そんな場所では、キャンプなんてしたくない。
残念ながら、日本でそんなきれいごとをいっていたら、キャンプをする場所なんてないかもしれない。
いずれにせ、焚き火のあとを残したまま平気でキャンプ地を去る人を、僕は信用しない。
その人がどんなに大金持ちでも、たとえ目が焼きつくような美女でも、僕はそんな人とつきあいたくはないのだ。断固として。
久しぶりに沖縄へ行ってきた。島から島へのシーカヤック旅へと出かけてきたのだ。
今回は、『沖縄カヤックセンター』のツアーへ遊びにいったのだ。
お月さんは、日に日に太くなっていく。
タープの下に寝転がって、仲間たちが焚き火を前に語らうのを眺めながら、「自分にとっていちばん気持ちのいい焚き火」ってなんだろうな、と考えていた。
と、そのつぎの瞬間には、僕は眠りの底に落ちている。
なるほど。
「睡眠を誘発する焚き火に勝るものはない」のかもしれない。
(写真=山田真人)