大きなバックパックにテントやストーブ、食料などなどを詰めて山へと続くトレイルをひとり歩くと、圧倒的な自由さが広がっていく。緊張感と解放感。
このトレイルは、世の中の流行とは逆方向へと続いている。そう信じることができるのだ。
そんな気持ちに浸りたいから、人は自然の中を歩いていくのかもしれない(少なくとも、ぼくはそうだ)。
バックパッキングの旅へ出ると、人間ひとりが生きていくにはそんなに多くの荷物はいらないんだな、ということが実感できる。なんせ、いま背負っている荷物がこれから数日間の生活道具のすべてなんだから。
その日の停泊地へついて、バックパックをおろす。座り込んで荷物を広げていく。装備をいくら散らかしても、それらすべては座ったまま手の届く距離にある。
2メートル四方に、人間が生きていくための道具すべてがある。ぼくは、その小宇宙的感覚が好きなんだ。
長い旅へ出るなら、そんなに大それた装備はいらないけど、頑強なブーツと大きなバックパックは、妥協することなく選びたい。
一生、旅を続けられるようなしっかり者のバックパックとブーツを手に入れたいのだ。
なんたって、バックパックとブーツは、しんどい時間をともに過ごす道具なのだ。
ときには20キロを超える重量にもなるバックパックである。そして、それを背負って毎日歩くわけだ。
歩いている間はずっと背負っているわけで、ようするに、いちばん「しんどい」時間をいっしょに過ごす道具なのである。
慎重に選びたいのである。
バックパックを選ぶとき、「サイズを合わせる」というのはすでに常識になってきた。
サイズというのはパックの容量のことではなく、背面長やハーネスの長さなど身体に合うかどうかのサイズだ。服と同じ、ということである。
いや、服とちょっと違うか。
もうずっと前のことだけど、「シャツのサイズがちょっとぐらい合ってなくても、それはたいした問題じゃないだろ」と、ウェイン・グレゴリーが言っていた。
ウェアより、バックパックのフィットのほうが重要なんだ、ということだ。
バックパックメーカー各社は、万人にフィットするよう、ハーネスの取りつけ方などいろんな工夫を凝らしている。選ぶときには、その工夫を理解して身体に合わせ、かつ実際に背負ってみてフィット感がどうか、を確認することだ。
バックパックを選ぶのは、意外と時間と手間暇のかかる作業なのだ。そのことを忘れずに!
時間をかけて選んだ大きなバックパックを手に入れたなら、もう出かけるしかない。
ちょっとばかりしんどい旅へ出かけてみればいい。
旅の上でおこるかもしれない「やっかいごと」を予測して、慎重にかつ大胆に行動すればいいのだ。
しかし、旅先には、予想をはるかに超える難渋の「やっかいごと」が待っている。
旅とは、そういうものなんだ。
世の中は、そんなに人間の都合よくはできていない。そんなことを年に二、三回は確認したほうがいいのかもしれない。バックパックを担いだ旅へ出ることによって。
とくに、ぼくのようにすぐ調子に乗ってしまう男は。