法螺吹き男爵の「芦ノ湖フィッシングキャンプ」

法螺吹き男爵の「芦ノ湖フィッシングキャンプ」

久しぶりにフライフィッシングへ出かけることになった。 こう見えても、ぼくはフライフィッシャーマンなのである。 そこで今夜は、わが釣り歴の輝かしい日々を話してみよう。 なんのことはない。今日(4月1日)は、法螺吹き男爵の日だけどね。

 ワイルドワン・スタッフには、釣り名人が多い。  そういえば、各店の釣り部門も充実している。釣り好き、釣り名人のスタッフが、せっせと釣りへかよい、その経験を活かし売り場を作りあげているのだろう。  そんな釣り好きスタッフ […]

 ワイルドワン・スタッフには、釣り名人が多い。
 そういえば、各店の釣り部門も充実している。釣り好き、釣り名人のスタッフが、せっせと釣りへかよい、その経験を活かし売り場を作りあげているのだろう。
 そんな釣り好きスタッフが、「いっしょに芦ノ湖へ行きませんか?」と声をかけてくれた。なんでも、芦ノ湖が「爆釣」らしい!

 それで思い出したが、ぼくもフライフィッシャーマンとして全国を釣り歩いていた日々があったのだ。
 なにを隠そう、フィッシング歴は長い。ルアーロッドをはじめて握ったのは、かれこれ30年以上も前のことだ(子どものころのフナ釣りの話からはじめるとページがいくらあっても足らないで、今日のところは30数年前からの話としよう)。

古いオービスのフライフィッシングロッドを取り出し、「明日はこの竿にどんな大物がかかるんだろう」と、妄想しているのである。

古いオービスのフライフィッシングロッドを取り出し、「明日はこの竿にどんな大物がかかるんだろう」と、妄想しているのである。

 20代のはじめに、いまや害魚、外来魚の象徴でもあるブラックバスの釣りからはじまり、フライロッドにもちかえて湖でトラウトを狙い、渓流でイワナやヤマメを追いかけ、そしてソルトウォーターでは、来るもの拒まずの釣りをしてきたのだ。
 鱒といわずトラウトと呼ぶところが、フライフィッシャーマンっぽいではないか。それに、海と書けばいいものを、わざわざソルトウォーターなどとこざかしい言いまわしも、なにやら当時ふうである。

 そんなぼくを釣りに誘ってきたのだ。
 「ほんとに釣りが得意なのか?」という疑いからか。
 いや、「スタッフだけでいって釣れなかったら困るし、ここは真の名人に登場してもらう!」ということだろう。きっと。

釣り談義にビールは欠かせない。スタンレーのビアマグ(クラシックバキュームパイント)は、ワイルドにして上品な質感をもつ。最近は、家でも使っているアイテムだ。

釣り談義にビールは欠かせない。スタンレーのビアマグ(クラシックバキュームパイント)は、ワイルドにして上品な質感をもつ。最近は、家でも使っているアイテムだ。

 とにもかくにも、フライフィッシング道具を物置からひっぱり出し、さっそうと出向いてみたのである。芦ノ湖へ。
 と、「あれ? ほんとに来たの。やっぱり暇なんだねえ」だとさ。
 なんと、「どうせ暇にしてるだろうし、誘わないとスネるから、とりあえず声だけでもかけておこう」ということだったらしい。

ワイルドワン入間店の角田太郎(左)が、芦ノ湖フィッシングキャンプへと誘ってくれたのだ。「今、すごく釣れてます」と。

ワイルドワン入間店の角田太郎(左)が、芦ノ湖フィッシングキャンプへと誘ってくれたのだ。「今、すごく釣れてます」と。

 ま、そんなことはいい。いずれにしても、夕方の芦ノ湖である。
 さっそく「夕まづめ」を狙っての釣りだ。
 と思ったら、「今日はうまいものでも食って、明日の早朝から釣りへいきましょう」というではないか。
 なんでも、アウトドア・コーディネーターの牛田浩一(ブルズワークス)が、キャンプサイトでうまいものを作ってくれているらしい。
 それはそれで美しい計画である。
 ならば、たき火を囲みながら、だれにも話をしたことがないぼくが昔釣った魚の話でもしようじゃないか!

角田が持ってきてくれたのは、マッドリバー「スティールヘッド」というアメリカのビール。「なんだか、これ飲んだら明日は釣れそうだな」と、わたくし。

角田が持ってきてくれたのは、マッドリバー「スティールヘッド」というアメリカのビール。「なんだか、これ飲んだら明日は釣れそうだな」と、わたくし。

 北海道の天塩川では、幻のイトウを釣ったな。あれは、一週間にわたるカヌー旅の途中だった。
 紀伊半島の静かな湖では、モンスターなブラウントラウトを上げたこともある。
 沖縄では、巨大ガーラ(シマアジ)と格闘した。
 それにニュージーランドでは、スピードキングのレインボートラウトと競争するかのごとく、フライリールを「ジーーッ、ジーーッ」と鳴らしながら川の中を走ったもんだ。
 カナダやアラスカでも、数々のトロフィーサイズを手にした。
 そうそう。アマゾン川では、ピラーニャに齧られそうになりながらも、なんとか釣りあげたこともある(ピラニアのことである。故・開高健に敬意を表し「ピラーニャ」という表記を使った)。

「明日はこの毛鉤でばっちりです。先週は60センチオーバーのレインボーが。それにイワナもでかいのが釣れてます」と、角田がフライを巻いてくれた。

「明日はこの毛鉤でばっちりです。先週は60センチオーバーのレインボーが。それにイワナもでかいのが釣れてます」と、角田がフライを巻いてくれた。

 ワインを片手に、わがうるんだ瞳は遠い昔を見ている。
 集まったみんなも、ぼくの輝かしいフィッシング話に深くうなずいている。
 「でもな、角田。釣り上げた魚を自慢するために釣りをやってるんじゃないんだぞ。釣りは、川や湖との対話なんだ。フィッシングロッドを媒介に、自然と対話をしてるんだ。釣竿のその向こうにいる地球がもつ喜怒哀楽を感じるためにやってるんだ」
 ……………

 うっかりまじめな話をしてしまったので、焚き火を囲む輪が静まり返ってしまった。
 と思ったら、いつの間にかみんなは、牛田が準備をした別の焚き火を囲んで、料理を頬張っているのであった。
 やれやれ。
(つづきの実釣篇は、4月15日(水)更新で。乞う、ご期待!)

(写真=菊地晶太)

ふと気がついたら、ひとりのキャンプサイトである。だれも相手にしてくれないのだ。富士山も「法螺ばっかり吹いてないで、早く寝なさい」だとさ。 これでいいのだ。ムササビウイングは、こうした夜を過ごすためのあるのだ。 もう、寝よ。

ふと気がついたら、ひとりのキャンプサイトである。だれも相手にしてくれないのだ。富士山も「法螺ばっかり吹いてないで、早く寝なさい」だとさ。
これでいいのだ。ムササビウイングは、こうした夜を過ごすためのあるのだ。
もう、寝よ。