ムササビ巣箱大作戦

ムササビ巣箱大作戦

「夜空を滑空するムササビが見たい」という単純な発想からはじまったムササビネスト・プロジェクト。 この大作戦は、これからどこへ向かうのか……。

 ムササビなど木の洞をねぐらとする動物は、現在の日本では住宅難で苦しんでいる。  大きな木が、森からどんどんな […]

 ムササビなど木の洞をねぐらとする動物は、現在の日本では住宅難で苦しんでいる。
 大きな木が、森からどんどんなくなっているからだ。太い木がなければ、寝床となる大きな洞がない。ムササビたちの家がないのだ。
 ならば、ねぐらを作って設置すればいいじゃないか、と思いついた。鳥の巣箱のように。10年ほど前のことだ。
 そんなことを考えている人は日本中にいっぱいいるみたいで、すでにムササビの巣箱(ネスト)を設置しているところが各所にあった。で、僕はそのうちのいくつかを見て歩いた。
 東京近郊では、神奈川県立「津久井湖城山公園」が有名だ。この津久井湖城山公園には何度かかよい、公園の人の話を聞いたりもした。
 そして家に帰って、まずは巣箱を作ってみたのだ。
*ムササビ観察の話は、2015年1月8日更新のこのBlog『冬の夜遊び~ウラヤマを舞うムササビを探しに』。
こちらから。

ひょっこり巣箱から顔を出したムササビくん。

ひょっこり巣箱から顔を出したムササビくん。

 巣箱を作ったのは、ひそかに設置を狙っていた場所があったからだ。ある山の登山道入り口の駐車場近くに、ゲリラ的にこの巣箱を設置しようとたくらんでいたのである。もちろん、登山道からも駐車場からも見えないところ。踏みあともない藪を50メートルほど抜けていく秘密の場所だ。
 ここへ巣箱を設置すれば、だれも知らない場所で、好きなときにムササビが見られると考えたのだ。
 それから数年。巣箱作戦を実行に移せないまま過ぎていった。木に巣箱をかけるすべがなかったのだ。
 そんなあるとき、神奈川県南足柄にある『ez BBQ country』という小さなキャンプ場を知った。そして、そこのスタッフといろんな話をする中で、 ムササビ巣箱設置作戦の話をしてみたのだ。
 さっそく、キャンプ場内やキャンプ場まわりの森に巣箱を設置しようとなった。

いつかどこかへ設置したい、とまずは巣箱を作ってみた。

いつかどこかへ設置したい、とまずは巣箱を作ってみた。


南足柄の森にはじめて設置した巣箱は、しばらくはムササビが使っていたのだが、その後スズメバチが巣を作った。そりゃ困るんだよ、と思ったけど、これもまた人間の『都合』なのだ。

南足柄の森にはじめて設置した巣箱は、しばらくはムササビが使っていたのだが、その後スズメバチが巣を作った。そりゃ困るんだよ、と思ったけど、これもまた人間の『都合』なのだ。

 新しいジーンズがなかなか肌になじまないように、ムササビたちも、なかなか巣箱に寄ってこなかった。しかし、三か月ほどたつと、その巣箱にムササビが入るようになってきた。巣箱のまわりにもムササビの痕跡が見られるようになった。
 そこで調子に乗った僕たちは、CCDカメラを仕込んだ巣箱を作ったのだ。パソコンをモニターに、巣箱の中をリアルタイムで覗けるようにした。南足柄の森に巣箱を設置して3年目のこと。昨年(2015年)の初夏のことだった。
 やがて、その巣箱にもムササビが入るようになった。ムササビが巣箱で過ごす(寝る)様子をパソコンの画面で見ることができたのだ。
 そればかりか、今年の春には巣箱の中で子どもを二頭出産したのだ。僕たちは、パソコンの前でムササビの子育てを眺める日々が続いたのだ。

夕暮れに巣箱を見上げ、日没後に巣箱から出てくるムササビを待つ。

夕暮れに巣箱を見上げ、日没後に巣箱から出てくるムササビを待つ。

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 それから4年がたったいま、キャンプ場まわりにはムササビの気配が濃厚だ。運がよければ、キャンプ場内でもムササビを観察できる。
 つい先日も、古いこわれかけた巣箱を新しいのにつけかえた。
 こうして『ez BBQ country』は、ムササビが舞うキャンプ場となったのだ。

ムササビ観察をして、ムササビの巣箱を作り、それを木に設置する。『ez BBQ country』キャンプ場では、多くの人に野生動物を身近に感じてもらうため、このようイベントをおこなっている。

ムササビ観察をして、ムササビの巣箱を作り、それを木に設置する。『ez BBQ country』キャンプ場では、多くの人に野生動物を身近に感じてもらうため、このようイベントをおこなっている。

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 巣箱を設置したのは、いうまでもなくムササビを観察したいからだった。
 住宅難解消の手助けという面もあるが、いつでも気軽にムササビを見たい、というのが混じり気なしのいちばんの理由だ。
 あくまでも、僕の『都合』だったのだ。
 ところがキャンプ場へ設置したことで、遊びに来た多くの人がムササビを見られるようになった。滑空するムササビをはじめて見た人は、おとなも子どもも「ぽかん」と口をあけている。
 「こんな身近に野生動物がいるなんて」と、みんなが驚くのだ。
 ムササビをはじめとする野生動物との触れあい、を題材にすれば、それはそれで美しい話が書けるかもしれない。
 でも、それを美しいと思うのも、また人間の『都合』なのである。

古い朽ちかけた巣箱を降ろすと、中にはムササビがつい最近まで寝床としていた痕跡がはっきり残っていた。

古い朽ちかけた巣箱を降ろすと、中にはムササビがつい最近まで寝床としていた痕跡がはっきり残っていた。


キャンプ場のまわりを歩けば、ムササビの痕跡が。これはムササビがかじった葉っぱ。たぶん、昨夜のものだろう。

キャンプ場のまわりを歩けば、ムササビの痕跡が。これはムササビがかじった葉っぱ。たぶん、昨夜のものだろう。

 さて。
 ムササビが舞うこの森と、人間の『都合』はさておき、僕たちはこれからどういうふうにつきあっていくか。
 夜空を滑空するムササビに、真価が問われているようでもある。

CCDカメラがとらえた巣箱内部。この春、二頭の子どもと彼らを育てるお母さんの様子に、僕たちは一喜一憂した。

CCDカメラがとらえた巣箱内部。この春、二頭の子どもと彼らを育てるお母さんの様子に、僕たちは一喜一憂した。

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